近年、『リカレント教育』というものがよく言われるようになってきました。1970年頃にスウェーデンから世界に紹介されたそうです。
リカレント教育とは、「リカレント(recurrent)」に「循環する」という意味があり、「学ぶ」と「働く」を循環して知識・技術を磨いていくという自己研鑽を指します。
社会人になってから、仕事に必要な知識や技術を学ぶためにリカレント教育を受けることは「社会人の学び直し」とも呼ばれています。
リカレント教育とは別に『生涯教育』がありますが、文部科学省の定義で人々が生涯に行うあらゆる学習、例えば、学校教育や社会教育、文化活動、スポーツ活動、企業内教育、趣味など、様々な場や機会において行う学習とされており、リカレント教育とは分けられています。
実語教を知っていますか?
実は、昔の日本では、一生涯学び続けることをとても重要視していたことを知っていますか?
それは、『実語教(じつごきょう)』という書物に表れています。
宗教ではありません。「実りのある語を教える」で実語教。
平安時代末期から明治時代の初期まで、約千年に渡って使用された教訓書です。著者は不明です。
特に、江戸時代の後期の寺子屋において基本となる教科書でした。
全ての人に平等に与えられ有限である時間の中で
人が人生を誇り高く生きるためには何が必要なのか、そのことを説いています。
実語教の特徴
特徴は
- 絵入り
- 五字一句
- 対句(対照的表現)
です。
例えばこのような内容です。
山髙故不貴
以有樹為貴
※現代文
山高きが故に貴からず(やまたかきがゆえにたっとからず)
木有るを以って貴しとす(きあるをもってたっとしとす)
※意味
山はただ高いことが尊いのではない。
樹木が茂っているからこそ尊いのだ。
実語教の抜粋
生涯学び続けることの大切さについては、全体を通して繰り返し説いています。
その一部をご紹介します。分かりやすく、現代文で記載します。
「人学ばざれば智無し 智無きを愚人とす」
(人間は、学ばなければ知恵はつきませんし、知恵がなければ愚か者です)
「千両の金を積むと雖も 一日の学に如ず」
(たくさんのお金よりも、一日学んだ方が価値があります)
「故に書を読んで倦むことなかれ 学文に怠る時なかれ」
(だから本を読むことを嫌がってはいけない。学問は常に怠らないようにしましょう)
「眠りを除きて通夜に涌せよ 飢えを忍びて終日習え」
(夜中に眠たくなっても寝ず、お腹が減っても昼夜学びましょう)
「故に末代の学者 先ず此の書を按ずべし」
(そのため後世の人々は、まずこの書を読んで考えてください)
「是学文の始め 身終わるまで忘失することなかれ」
(実語教が学問の始まりで、死ぬまで忘れてはいけません)
知恵を磨き続けることの重要性だけではなく、両親、親族、夫妻、師の大切さ、礼儀と慈愛を持つことの大切さ、周りの人たちとのつき合い方などについても説いています。
千年以上受け継がれてきた教訓書です。その間に多くの人が読み、加筆、修正されたところもあるでしょう。最初に読んだ時、その完成度の高さにとても驚きました。
長い歴史の中で積み重ねてきたものの奥深さは、とても素晴らしいです。一個人の経験などは、足元にも及びません。
人生100年時代といわれる現代、学び続けることの重要性は、さらに高まっていると思います。
知恵を磨くことの重要性
学ぶということは、学校で勉強をする、資格を取得する、知識や技術をつけることだけではないと思います。
裕福であることより、地位が高いことより、知恵を磨き続けることこそが充実したキャリアを形成する、充実した人生を歩むことに大きな影響を与えるのではないでしょうか。
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